官公需

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中小企業者に関する国等の契約の基本方針(官公需)

 「官公需」という言葉をご存じでしょうか。国等(各府省庁、公庫、独立行政法人、国立大学法人、地方公共団体ほか)が、物品を購入する、サービスの提供を受ける、工事を発注することを「官公需」といいます。

 国等は、中小企業者の官公需の受注機会を増大するために、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(昭和41年法律第97号)」(以下「官公需法」)に基づいて、中小企業者向けの官公需契約目標や目標達成のための措置を内容とする「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」(以下「基本方針」)を毎年度閣議決定し、公表しており、令和6年度については、令和6年4月19日に閣議決定されています。

 なお、各省庁でも当該基本方針に基づき、個別の基本方針を策定し、公表しています。

令和6年度基本方針の概要

契約目標

〇国等の官公需予算総額に占める係る中小企業・小規模事業者向け契約目標→比率:61% 金額:5兆3,557億円
〇国等の官公需予算総額に占める係る新規中小事業者向け契約目標→比率:3%以上

基本方針において新に講じられた主な措置

(1)「物価高に負けない賃上げ」の実現に向け、官公需においても価格転嫁を進めること
(2)令和6年能登半島地震の被災地域の中小企業者等に対し、受注機会を増やせるよう配慮すること

 なお、官公需法でいう中小企業者とは、以下のものをいいます(官公需法第2条、同法施行令第1条)。また、新規中小企業者とは、創業10年未満の中小企業・小規模事業者をいいます(官公需法第2条)。表にまとめると以下のようになります(筆者が条文に基づき作成)。

基本方針における、国等が講ずる措置に関する基本的な事項

受注機会拡大の意義等

 基本方針では、第一に総則的事項として、官公需について、中小企業・小規模事業者の受注機会増大を図ることが我が国経済を持続的発展の軌道に乗せていくために重要な事項の一つとしています。

 また、最低賃金引上げ分の円滑な価格転嫁を図るため契約金額を変更するなど、受注者中小企業・小規模事業者が最低賃金法(昭和34年法律137号)を遵守する義務を履行できるよう配慮が必要とし、加えて、特段の配慮として、中小企業・小規模事業者が引き続き「働き方改革」への取組み(労働時間の短縮及び労働条件の改善)が行えるよう、発注と納入時期の平準化及び弾力化等の配慮を行うことが求められています。

 さらに、東日本大震災並びに令和2年7月豪雨及び令和6年能登半島地震により被災した中小企業・小規模事業者への更なる配慮が必要としています。

 上記の考え方を軸足に、基本方針では、“中小企業者の受注の機会の増大のために国等が 講ずる措置に関する基本的な事項として、全部で7項目を挙げています。本記事において全てを掲載するのはあまり意義がないので、次年度の基本方針に向けて、私なりに注視していく事項を以下のとおり、記したいと思います。

 なお、当該基本方針は国等の官公需(公共調達)のあり方を示す、配慮や努力義務を記しています。本記事に記載する内容についても、個別又は具体的に態様が変わる可能性もあり、個々の入札について、その成否をお約束するものではありません。記事の内容(情報)は、行政機関等のサイトや公表資料から当ブログ運営者が情報収集し、参考として掲載しているものです。予め、ご了承ください。

官公需情報の徹底

 国等は「透明性の向上と公正な競争の確保に留意しつつ、官公需に関連する情報の提供促進」の観点から、「官公需情報の提供の徹底」のための措置を基本方針に盛り込んでいます。このうち、具体的な情報発信元等として挙げられているのが、次の3つです。

1)官公需情報ポータルサイト(中小企業庁)
2)中小企業基盤整備機構
3)官公需総合相談センター(中小企業団体中央会)

中小企業・小規模事業者への資金繰りへの配慮

 「国等は、特に、人件費比率の高い役務契約に対し、業務内容応じて部分払い(毎月払い等)を行うよう配慮することに努めるものとする。」とし、さらに「国等は、中小企業•小規模事業者との官公需契約における支払いまでの資金繰りに配慮し、 国等に対する債権の譲渡が必要と認められる場合は適切に対応するものとする。特に、発注 者から債権の譲渡制限の意思表示がなされた場合であっても、受注者による譲渡の効力は妨 げ ら れ な い こ と と 改 正 さ れ た 民 法 ( 明 治 2 9 年 法 律 第 8 9 号 ) 第 4 6 6 条 第 2 項 の 趣 旨 を 踏 まえ、国等は、中小企業•小規模事業者による資金調達の円滑化を図るため、国等の承諾を 得なかったとしても債権の譲渡は有効であることについて、ホームページへの掲載等により 中小企業•小規模事業者に情報提供するなど、資金繰りへの配慮に努めるものとする。」としています。

適正価格での契約や価格と品質が総合的に優れた調達の推進

最低賃金額の改定に伴う契約金額の見直し

 「入札金額における人件費について、契約期間中に最低賃金額の改定が見込まれる場合 には、その改定見込額についても考慮した上で入札することを入札希望者にあらかじめ周知 するものとする。また、人件費単価が改定後の最低賃金額を下回った際は適切な価格での単 価の見直しを行う旨の条項をあらかじめ契約に入れることなどにより、年度途中で最低賃金 額の改定があったとしても、受注者が労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払う義務を 履行できるよう配慮するものとする。」としています。

 さらに、「国等は、契約後において、清掃、警備、洗濯、庁舎管理、電話交換その他最低賃金又はそ の近傍の人件費単価の被用者が用いられる可能性のある役務契約について、最低賃金額の大 幅な改定があった場合には、契約金額を変更する必要があるか否かについて受注者に対し確 認し、最低賃金引上げ分の円滑な価格転嫁を図るため契約金額を変更するなど、受注者が労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払う義務を履行できるよう配慮するものとする。」としています。

労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇への対応

 「国等は、公共工事の発注に当たっては、労務費、原材料費、エネルギーコスト等の実勢価 格を反映した適正な請負代金の設定や適正な工期の確保について、契後の状況に応じた必要な契約変更の実施も含め、適切に対応するものとする。
特に、労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇時における請負代金額の変更の的確な実施のため、あらかじめ、当該変更についての条項を契約に適切に設定するとともに、当該条項の運用基準を策定しておくものとする。」としています。

 さらに、「国等は、物件及び役務の契約の途中で、労務費、原材料費、エネルギーコスト等の実勢価 格に変化が生じた場合には、契約金額を変更する必要があるか否かについて検討し、契約変 更の実施も含め、適切に対応するものとする。また、受注者から労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇に伴う契約金額の変更に ついて申出があった場合にはその可否について迅速かつ適切に協議を行うものとし、その旨 の条項をあらかじめ契約に入れるなど、受注者からの申出が円滑に行われるよう配慮するも のとする。」としています。

今後の官公需について

 基本方針は法律でなく、さらに、「配慮」「努めるようにする」「考慮」等の文言からもわかるように、国等の公共調達のあり方を示すガイドライン的な内容になっています。しかし、この基本方針に沿い、各省庁等及び地方公共団体等においても基本方針が策定されいるようです。したがって、公共調達における全体的な流れを示す道標にもなっていると思われます。

 前記のとおり、最低賃金や労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇への対応についても触れられており、中小企業者や新規中小企業者(スタートアップなど)への公共入札の門戸を広げ、「受注機会拡大へ」ベクトルを向けています。

 基本方針については、令和5年度、令和6年度ともに4月に公表されています。令和7年度についても例年通りであれば、あと数か月で基本方針が公表されることになるかと思います。公共調達の受注に関し、このような国等の動きなどについても、適宜、情報収集をしてみてもよいのではないでしょうか。



 


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この記事を書いた人

勤務特定社労士。左記国家資格以外に、BSA(事業承継アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、TAA(事業再生アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、事業承継・M&Aエキスパート(一般財団法人金融財政事情研究会)の認定資格を取得。現在は、上記いずれの資格とは、直接には関係のない公的年金関係の団体に従事する勤め人です。保有資格に関連する実務経験はありませんが、折角、保有している資格を活かしたく、個別労働関係紛争に関する事項、労働法務デューデリジェンス、中小企業の事業再生や事業承継M&A、経営者保証問題について、中小企業庁が公表している各種ガイドライン、M&A関連書籍等及びセミナー等を通じて、自己研鑽・研究しています。現在(令和6年)、58歳。役職定年間近の初老の職業人です。

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