令和ルネサンス「コロナ緊急措置終了へ(中小企業支援のスタンスを経営改善・再生支援を軸とする方向に回帰、民間ゼロゼロ融資返済、本年4月が山場)、そして、この先(その2)」

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目次

前回(その1)を振り返って

 前回(その1)では、令和6年3月8日に公表された「再生支援の総合的対策」により、新型コロナウイルスで導入した政府による中小企業向け資金繰り支援の緊急措置が終了し、本年7月以降は、コロナ前の支援水準に戻し、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援に軸足を移されることに触れ、コロナ前の中小企業向け資金繰り支援がどのようなものであったか自分なりに整理してみました。
 
 中小企業向けの資金繰り支援については、いわゆる金融検査マニュアル(2019年12月に廃止)及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」に基づき、貸出条件緩和債権の判定により、要注意先(要管理先)以下の債権の貸出条件緩和債権(不良債権)に該当するか否か(いわゆるランク付け)がひとつの判断基準でした。

 そして、この判断基準に該当しても不良債権に該当しない緩和基準として採用されたのが、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画(実抜計画)」及び「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画(合実計画)」の策定でした(=判断基準の例外)。
 
 さらに、平成21年(2009年)12月の中小企業金融円滑化法(注)(以下、「金融円滑法」)の施行に合わせ、「実抜計画」の策定がなくても、債務者が中小企業であって、貸出条件の変更から最長 1年以内に計画策定の見込があれば、条件変更から最長1 年間は、貸出条件緩和債権には該当しないとされました(さらなる判断基準の例外)。

(注)「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(平成21年法律第96号)」。平成21年12月に約2年間の時限立法として施行、その後、2度の延長の後、平成25年(2013年)3月末の期限切れ、終了した。

 また、金融円滑法では「中小企業等の債務者が借入金の返済について条件変更等の申込みを行った場合に金融機関が出来る限り柔軟な対応(貸付条件等の変更に応じること)を取るよう」努力義務が定められ、金融円滑法が廃止後も恒久化措置とされました。

 そして、これらによる施策等については、金融円滑法終了後も、金融機関が、引き続き、柔軟な条件変更等に応じていることが継続されていたようです。
 
 このため、金融円滑法廃止後の倒産件数も9千から8千件台と横ばいの状態が続き、危惧された倒産件数の増加は見られませんでした。

 しかし、その実態は、事業改善が見込めない、再生困筆難な窮境状況にある中小企業等を延命する「芽」を作ってしまったのではないかということです。

 さらに、コロナ禍における「中小企業向け資金繰り緊急措置」等によりこの実態が覆い隠され、経営改善が見込めない中小企業の再生等を先送りさせることになったのではないかと考えます。
 
 そして、令和6年3月8日、「再生支援の総合的対策」が公表され、新型コロナウイルスで導入した中小企業向け資金繰り支援の緊急措置を終了、本年7月以降は、コロナ前の支援水準に戻し、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援に軸足を移すことになります。
 
 このことにより、事実上不要となっていた「実抜計画」の策定が再び推進され、民間金融機関においては、早期に経営再建計画等の策定支援が求められるなど、中小向けの資金繰り支援がコロナ禍前の水準、振り出しに戻ることになりました。

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倒産件数及び休廃業等の状況

 「再生支援の総合的対策」を踏まえた今後の中小企業の課題に入る前に、足元(ちょっと古いですが)の倒産状況、休廃業・解散状況、「ゼロゼロ融資」利用後の倒産状況、そして、最近、よく言われている”ゾンビ企業”というものについて、触れたいと思います(下記は、アコーディオンブロックというもので、「▼」をクリック(タップ)でコンテンツが開閉できます。)。

倒産状況(2023年度)

 東京商工リサーチが2024年4月8日に公表した「2023年度(令和5年度)の全国企業倒産」によると、「負債額1,000万円以上の全国企業倒産は、9,053件(前年度比+31.58%)、負債総額は、2兆4,630億7,800万円(同+5.96%)としています。
 
 件数は、2年連続で前年度を上回り、2014年度(9,543件)以来、9年ぶりの9,000件台、負債総額も2年連続で前年度を上回った。」とされています。
 
 このことから、倒産の件数がコロナ禍前の水準に戻り、増加傾向にあることが窺えます。
 
 また、「負債総額のうち、負債1億円未満が6,723件(構成比74.2%)となっており、小規模倒産が中心帯を占めている。」、「従業員数10人未満の構成比は88.6%」、「中小企業倒産(中小企業基本法に基づく)の構成比は99.94%」とされており、一部、中堅規模の企業にも倒産が広がったとされていますが、中小企業の倒産件数の割合が多いことを示しています。
 
 なお、「法的倒産8,701件(構成比96.1%)」とされていることから、事業再生の選択肢もなく、強制退場を余儀なくされたケースが多々あったと推察されます。
 
 一方、帝国データバンクでも同日「全国企業倒産集計2023年度報」を発表しており、集計基準、数値等に若干相違がありますが、件数の推移、負債規模別、倒産態様別、いずれも、同じ傾向又は同じ水準となっています。
 
 また、倒産主因別については、帝国データバンク及び東京商工リサーチ共に、いわゆる「不況型倒産」が8割以上を占め、業績回復が見込めず、経営破綻している企業の割合が多いということが窺えます。  

休廃業・解散状況(2023年)

 帝国データバンクが、2024年1月12日に発表した「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2023)」(以下、「休廃業・解散動向調査」)によると、2023年の休廃業・解散は、5万9105件、前年比10%増、うち、半数超が黒字休廃業とされています。
 
 また、「休廃業・解散動向調査」P2掲載の「『休廃業・解散』動向 推移」(表)によれば、休廃業・解散件数がコロナ禍前の2019年の水準に戻っており、コロナ禍の資金繰り支援策により件数の増加が抑制されていた倒産件数と同じ動きをしています。
 
 資産超過型休廃業を含めた黒字休廃業が増えた背景は、元々は、致命的な状況ではないが、今後の業界の発展の見通しが見えない等の外部環境の変化に加え、販売不調等の問題を抱えながら、コロナ禍の資金繰り支援により事業の継続が出来ていたが、資金繰り支援等の縮小に加え、物価高、人件費の高騰など外部環境がトリガーとなり、元々の問題が顕在化、事業の継続を断念せざるを得ないケースが増えてきたのだと思います。
 
 「休廃業・解散動向調査」では、このような休廃業・解散の状況を「『あきらめ廃業』を余儀なくされた中小企業が多く発生した可能性がある」(P2)と記しています。

ゼロゼロ融資利用後の倒産状況等

 前記の「全国企業倒産集計2023年度報」(帝国データバンク 2024年4月8日発表)によれば、2023年度における「『ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産』は、699件(前年度453件、54.3%増)発生、過去最多を更新した。」とされています。
 
 また、件数の推移を見ると、2020年度は42件、2021年度は218件となっており、2022年度からは物価高、人手不足による人件費等のコスト増が影響し始め、昨年7月にゼロゼロ融資返済開始の第1回目のピークを迎えたこともあり、増加の傾向となっていると思われます。
 
 なお、融資額が回収できない「不良債権(焦げ付き)」に相当する融資喪失額も相当程度発生している模様です。

いわゆる”ゾンビ企業”について

 私が初めて「ゾンビ企業」という言葉を知ったのは、事業再生アドバイザー試験(一般社団法人金融検定協会実施)の試験問題の中に出てきた時です。
 
 試験に先立ち、協会実施の通信講座を受けていたのですが、通信講座のテキスト等には掲載がなかったため、回答は不正解でした。表現があまりにも露骨なので、正直、使われた側の方としては気分が悪くなる表現だと思います。
 
 さて、話しを本題に戻します。このゾンビ企業という言葉ですが、1990年代前半にバブル経済が崩壊し、その後に日本経済が停滞した「失われた10年」を分析する際に専門家が使い始めた言葉とされています。
 
 いくつか考え方があるようですが、現在、定義として多く使われているのが、国際決済銀行(BIS)基準による定義で「設立10年超で3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(利払い負担に対する利益の比率=ICR))が1未満にある企業」とされています。
 
 言い換えると、借入金の利息を利益で支払えていない状態のことを言います。一般的には財務諸表分析で安全性分析の指標として用いられています。算定式にすると、以下のとおりとなります。

 
 帝国データバンクが上記のBIS基準に準拠し、本年1月19日に公表した「『ゾンビ企業』の現状分析(2023年11月末時点の最新動向)」(以下、「ゾンビ企業現状分析」)によると、ゾンビ企業率は17.1%、この率に基づくゾンビ企業数(推計)は、25万1000社とされています。
 
 このデータをどう見るかですが、問題は、絶対値ではなく、年々、借入金利息の支払能力に問題がある企業数が増えており、さらに、「ゾンビ企業現状分析」3ページ掲載の内容によると、このうち、「経常赤字」「過剰債務」「債務超過」に問題がある企業が一定数存在しているという点だと思います。
 
 総じて、これら企業は「倒産予備軍」に入る可能性もあり、倒産件数の動向と同様、一定数については、コロナ禍の資金繰り支援により延命されてきた可能性もあり、コロナ資金繰り支援が終了する今月末以降、問題が顕在化してくる可能性があるかもしれません。    

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「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正と「再生支援の総合的対策」からのメッセージ

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不採算事業整理を先送りしない、早期の経営改善、事業再生及び廃業の決断を促進

 その1及び前段において記したとおり、中小企業支援をより一層強化する観点から、2024年3月8日付で、「再生支援の総合対策」が策定・公表されました。

 さらに、これを踏まえて、同日付で、経済産業大臣、財務・金融担当大臣等から官民の金融機関に対し、要請文として、「『再生支援の総合対策』を踏まえた事業者支援の徹底について」が発出されています。

 これらにより、官民の金融機関等による事業者への支援について、コロナ禍の資金繰り支援フェーズから事業者の実情に応じた経営改善・事業再生支援フェーズへの転換と軸足を移すことを求める方針が明らかになりました。

 また、事業者の現状のみならず、状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応を求めるとともに(監督指針の改正)、民間金融機関に対し、事業者の経営改善・事業再生を先送りしないため、早期に経営再建計画等の策定支援を行うことを求めています。

 そして、いくつかの施策の中で留意すべきは、金融機関の取引先に対する「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」(実抜計画)の策定が再び促進されたことです。

 また、経営者保証に関連して、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的な考え方」が令和5年11月に改定されたことに触れ、廃業手続き(保証債務整理手続き)の早期着手、早期相談の重要性についてを経営者に周知させることを金融機関に求めている、2点です。

事業の持続可能性が見込まれない顧客企業への円滑な廃業手続きのサポート(監督指針)

 そして、その1でも触れましたが、令和6年3月に公表された「再生支援の総合対策」等に先立ち、令和5年11月に「事業者支援の促進及び金融の円滑化に関する意見交換会」が実施され、また、経済産業大臣、財務・金融担当相等から文書にて全国の官民金融機関等に対し、コロナ禍において資金繰りに注力した段階から事業者の実情に応じた経営改善・事業再生支援に取り組む新しい段階へ移行すること等が要請されました。

 詳細な内容は省略させていただきますが、「経営改善・事業再生支援等」、「経営者保証」等について、大要、「再生支援の総合対策」等と同じ内容になっています。

 一方、上記の意見交換会及び要請文に呼応する形で、本年4月から適用となっている「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」が公表されました。

 金融庁の資料「『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』等の一部改正の概要」によれば、監督指針改正は、大きく3つ内容で構成されています。
 1 経営改善・事業再生支援等の本格化への対応
 2 一歩先を見据えた早め早めの対応の促進
 3 顧客に対するコンサルティング機能の強化

 上記の中で注目すべき点は、 顧客企業の経営改善に向けた取組みについて「先延ばしすることがなく」という文言が追加されたこと、地域金融機関の役割推進について「資金繰り支援にとどまらない、顧客企業の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等を先延ばしすることなく実施する必要がある。」の文言が追加されたことなどがあげられます(赤文字、マーカーは、筆者が追記)。

 さらに、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮として、事業の持続可能性が見込まれない顧客企業について中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部に定める廃業型私的整理手続きの実施が追記されたことも、注目すべき点だと思われます。

 そして、その1でも触れましたが、令和6年3月に公表された「再生支援の総合対策」等に先立ち、令和5年11月に「事業者支援の促進及び金融の円滑化に関する意見交換会」が実施され、また、経済産業大臣、財務・金融担当相等から文書にて全国の官民金融機関等に対し、コロナ禍において資金繰りに注力した段階から事業者の実情に応じた経営改善・事業再生支援に取り組む新しい段階へ移行すること等が要請されました。

 詳細な内容は省略させていただきますが、「経営改善・事業再生支援等」、「経営者保証」等について、大要、「再生支援の総合対策」等と同じ内容になっています。

 一方、上記の意見交換会及び要請文に呼応する形で、本年4月から適用となっている「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」が公表されました。

 金融庁の資料「『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』等の一部改正の概要」によれば、監督指針改正は、大きく3つ内容で構成されています。
1 経営改善・事業再生支援等の本格化への対応
2 一歩先を見据えた早め早めの対応の促進
3 顧客に対するコンサルティング機能の強化


 上記の中で注目すべき点は、 顧客企業の経営改善に向けた取組みについて「先延ばしすることがなく」という文言が追加されたこと、地域金融機関の役割推進について「資金繰り支援にとどまらない、顧客企業の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等を先延ばしすることなく実施する必要がある。」の文言が追加されたことなどがあげられます(赤文字、マーカーは、筆者が追記)。

 さらに、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮として、事業の持続可能性が見込まれない顧客企業について中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部に定める廃業型私的整理手続きの実施が追記されたことも、注目すべき点だと思われます。

まとめ

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今後の倒産件数の傾向と金融円滑化法の功罪

 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の改正、「再生支援の総合対策」等により、今後、金融機関による「企業選別」の動きが進む可能性があり、これに伴い、業績不振の企業の資金繰りが悪化、倒産件数の増加が見込まれるとの見方が多いです。

 また、事業の持続可能性が見込まれない事業者の市場からの早期退場者(金融機関による積極的な廃業処理手続の推進)も増加していくともされています。
 
 では、コロナ禍前は、どういう状態だったのでしょうか。

 今回の政策転換により、猶予されていた「実抜計画」の策定も再び推進されることなりましたが、その1で記したように、「実抜計画」の策定の目的がそもそも債務者区分のランク付けアップの例外措置(救済措置)です。

 また、金融円滑化法の施行、同法廃止後も同法の努力義務が監督指針の盛り込まれ恒久的なルールになったなどにより、再建可能性のない企業が延命され、経営者が一時的な資金繰りの改善に安泰し、本業の業績改善(経営改善)への自助努力等が欠如したというようなモラルハザードの問題が既に起きていました。

 2012年当時の金融庁の推計によると、金融円滑法による貸付変更等を利用した債務者数は、約 30~40 万社と推計とされ、このうち経営改善計画が策定されておらず、事業再生や転廃業支援が必要な中小企業は、5~6万社と推計されていました(金融円滑化法については、その1を参照)。

 この5~6万社という数ですが、前記のゾンビ企業のうち、「経常赤字」「過剰債務」「債務超過」に問題がある企業が一定数(4万1000社、帝国データバンク)とほぼ同水準となっています。無論、内訳(構成)はリンクしていませんが、割合的に、確率的にゾンビ企業の定義に填まる企業のうち、16%~17%前後は、いつ倒産若しくは休廃業等に至ってもおかしくない状況にあるのではないでしょうか(当時と状況は変わっていないということです。)。

 「先送りせず」というフレーズも「中小企業金融円滑化法の最終延長を踏まえた中小企業の経営支援のための政策パッケージ」(平成24年(2012年)4月20日)の中で既に、使われています。

 したがって、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の改正、「再生支援の総合対策」等により、振り出しに戻ったというのが私の感想です。もとより、金融円滑化法により延命された事業者のうち、コロナ禍の中を生き延びた事業者数がどの位かわかりませんが、事業者の経営改善支援、再生支援の考え方の座標は、時間軸で言うと、金融円滑化法廃止後の位置に戻ったのでは?と思います。

旧金融検査マニュアルと事業性評価による事業再生支援(失われた30年)

 1990年代後半のバブル崩壊による地下下落で、企業や経営者の有する不動産等の資産価値を担保とする融資慣行を行っていた金融機関の不良債権が増加したため、銀行法及び金融再生法(「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第132号」)並びに金融検査マニュアルの運用による融資実務が行われ、金融機関の健全化が図られました。

 その後、2008年のリーマンショックを契機に立法化された金融円滑化法により、金融検査マニュアルを基礎としながらも、猶予措置(事業者の延命措置)を講じ、現在の下地が出来たと思います(逆言うと、効果が有り過ぎたということでしょうか。)。

 令和元年(2019年)12月には、金融検査マニュアルは廃止され、金融庁も一度は、金融機関の目指す方向を「事業性評価に基づく事業再生支援」が中心となるよう求めましたが、廃止後も廃止された金融検査マニュアルの債務者区分に基づく融資実務が継続されているのが現状だったようです。

 よく「失われた30年」という言葉を聞きます。
 色々な解釈があるようですが、今回のテーマ(中小企業への経営改善支援、再生支援、資金繰り支援)の観点のみから言うと、バブル崩壊後の約30年というのは、バブル崩壊後に導入した金融検査マニュアルについて、然るべき時期に見直しをせず、特に、リーマンショック後には、金融円滑化法とともに、企業の破綻を先延ばしした運用に特化した時期だと考えます。

 そういった観点から考えると、今回のテーマに限定した範囲での話ですが、「失われた」のではなく、「道迷いした」30年だったかもしれません。

 バブル景気は、株高・低金利・円高というトリプルメリットが奇跡的に享受出来た期間、運が良かっただけなのかもしれません。運が良かっただけなのに、果たして「失うもの」は、本当にあったのでしょうか。

 バブル景気の遠因は、1985年のプラザ合意によるドル安誘導、その結果としての円高不況対策としての金利引下げによる金余りが国内市場(株式市場、不動産市場)などに流れたことに因るものなどと、されています。

 その後の施策は、前述したとおり、企業の経営改善支援、事業再生支援と言っても、その本質は、金融機関の不良債権処理がメインであり、企業の新陳代謝や生産性という観点からの企業の経営改善支援・事業再生支援は、二の次に置かれていたのかもしれません。

 そして、この間、日本は、将来降りかかって来る危機(国際競争力の低下、生産性の低下、少子高齢化、人不足の問題など)に十分な準備(企業、産業の構造改革)が出来なかったのかもしれません。

 そう言った意味では、バブル崩壊後の後処理が多少、落ち着いたリーマンショック前に、企業の経営改善支援、事業再生支援について、企業の新陳代謝について、方向転換を図るべきだったのではと思います。
 したがって、前述の時間軸の座標については、もう少し前、「道迷いした」リーマンショック前に戻し、考えていかなければいけないのではと、素人ながら考えるところです。

 そして、企業の経営改善支援及び事業再生支援については、事業性評価を軸に、将来の事業収益(キャッシュフロー)を中心に進めていくことが肝要かと思われます(勿論、資産の保有状況も無視は出来ませんが。)。
 
 また、企業(事業者側)は、資金繰り(融資を受ける)にあたり、そのハードルを越えるべき、自社の「磨き上げ」を十分に行うなど企業価値を高める自助努力が必要になるかと思います。すなわち、他律的ではなく自律的な思考回路にスイッチを切り替えるべきだと思います。

  なお、仮に、この30年間で日本が失ったものがあるとすると、それは、全ての人々の場合ではないですが、「勤勉さ」「生真面目さ」「実直さ」かもしれません(良し悪しのコメントは、控えます。)。

雇用形態から見た今後の事業の在り方、最後のピース。「自立への醸成」(令和ルネサンス)

 今まで、金融支援を中心に論じて来ましたが、労働生産性、国際競争力を上げるためのツールとして、女性や高齢者の労働参加、多様な働き方の導入などの施策のほか、それらを支える、近年における技術革新(DX、IT化、AIの導入等)が考えられますが、その前提で、それらを最大限に生かすための土台として、最後のピースが必要かと思います。

 それは、雇用形態、賃金体系の評価としてのジョブ型(職務給)雇用への移行だと考えます。
 
 例えば、テレワークにしても、本当に生きるのは、ジョブ型(職務給)雇用を前提とした仕事のやり方があってこそだと思います。前提の仕事が従来どおりだと、テレワーク勤務も、結局は、中東半端な形になり、生産性の向上には繋がりません。

 また、中高齢者の就職についても、現状の職能給を中心としたメンバーシップ型雇用の中では、中々、採用されず、この辺りが、人手不足と言いながら、中々、中高齢者が正規職員の職に就けない背景になっているかと思います。

 そして、身体的な条件により通勤が困難な方、親の介護のため、通勤が中々出来ない方など、会社等に出勤が前提となっている雇用形態や賃金体系(評価)では、障害者雇用調整金や介護休業給付金などの施策があっても、企業側で受け入れるキャパには、限界があると思います。

 しかし、現在では、WEB会議やメタバースによるバーチャルオフィス、情報端末・情報処理端末のアクセシセビリティ機能の発達など、今まで困難と思われていたこと実現可能にする技術進歩が目覚ましく、また、現在進行形でもあります。

 無論、ジョブ型(職務給)雇用にそぐわない業種や職種もあり、全ての仕事について、ジョブ型(職務給)雇用を前提とした業務体制への移行は、逆に問題が生じる場合もあると思います。
 
 また、従来の職能給を中心としたメンバーシップ型雇用からジョブ型(職務給)雇用への移行は、業務体制の見直し、人事評価・賃金体系(人事制度)の再設計、既得権との調整など対応すべき課題、障害事由が多々あるかと思います。

 また、最大の障壁になるのが、ジョブ型(職務給)雇用への移行を決断する側の大半が職能給(年功序列など)による雇用形態にある方たちであるということです。これは、今の自分の立場をある意味、否定しないといけないという大きな精神的な障壁です。

 しかし、全員参加型の雇用の実現を図り、労働生産性を上げるには、視線を将来に向け、ジョブ型(職務給)雇用への移行を可能な限り、進めていくべきだと考えます。

 かっては、どの企業に、どの機関に入るかが、就職の価値判断であり、雇う側と雇われる側とは、保護する方と保護される方という関係にありましたが、ジョブ型(職務給)雇用は、雇う側と雇われる側とでは対等関係にあり、雇われる側がもらう金銭は、労働基準法の労働者の定義で重要なファクターでもある「労働の対価としての賃金」ではなく「仕事に対する報酬」という意味に変遷するのでしょうか。
 また、これは、完全形の「同一労働・同一賃金」に近づくことになるかもしれません(労務問題の話しです。)。

 一方、このことは、雇われる側の精神的な自立も求められ、雇う側に保護されるのではなく、自らの力量と器量でお金を稼ぐという「覚悟」も求められるということも、忘れてはいけないことだと思います。

 企業の自立、雇われる側の自立、「令和のルネサンス」は、扉の向こうに現れるでしょうか。

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この記事を書いた人

勤務特定社労士。左記国家資格以外に、BSA(事業承継アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、TAA(事業再生アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、事業承継・M&Aエキスパート(一般財団法人金融財政事情研究会)の認定資格を取得。現在は、上記いずれの資格とは、直接には関係のない公的年金関係の団体に従事する勤め人です。保有資格に関連する実務経験はありませんが、折角、保有している資格を活かしたく、個別労働関係紛争に関する事項、労働法務デューデリジェンス、中小企業の事業再生や事業承継M&A、経営者保証問題について、中小企業庁が公表している各種ガイドライン、M&A関連書籍等及びセミナー等を通じて、自己研鑽・研究しています。現在(令和6年)、58歳。役職定年間近の初老の職業人です。

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