帝国データバンクの調べによると、「2024年1-10月に発生した、後継者がいないことで事業継続が困難になった『後継者難倒産』(負債1000万円以上、法的整理)は455件となった。」とされています。さらに、「月次ベースでは 2024年10月に過去最多の63件を記録するなど増勢ペースは加速している。通年では、2年連続で500件を上回る高水準での推移が見込まれる。」(全国「後継者不在率」動向調査⦅2024年⦆)とされています(2023年は564件)。
また、少し、データが古くなりますが、2019年中小企業白書によると「2017年現在、中小企業等の経営者の平均引退年齢が75歳といわれていることからすると、2025年には約245万人が引退することになるが、そのうちの約半数127万人、51.8%が後継者未定と言われている。正にこのままいけば大廃業時代を迎えることになってしまう」と指摘されていました。
団塊の世代((1947~1949年生まれ)が75歳以上になるいわゆる「2025年問題」を目前にして、中小企業の後継者難について、どのように考えていったらよいのでしょうか。
後継者不在率の推移
大まかな傾向
前記の帝国データバンクの動向調査によると、2024年の後継者不在率は52.1%。また、同社の「『後継者不在率』推移」によると、2017年の66.5%をピークに減少傾向となっており、改善されて来ている傾向があることが窺えます。この背景には、事業承継の窓口が増えたことやM&A・ファンドを利用した第三者承継のスキームが認知されてきたこと、国の施策(税制面、補助金や各種支援機関の設置など)による後押しなどによる環境変化などの要因が影響したものと思われます。
しかし、調査対象となった全国の全業種約27万社(その大半が中小企業等)の約半分が後継者不在の状況にあるという認識は必要かと思います。
注目すべきは60代以降の代表者の後継者不在率
帝国データバンクと同業者他者による調査では、後継者不在率を調査している会社の調査結果では、帝国バンクとは違い後継者不在率が増加傾向にあるとの結果になっていますが、これは、30歳未満、30歳台の創業や事業承継から日が浅く、現時点では後継者を選定する必要がないため不在率が高く、この率が全体の不在率を上げていることなどが要因と思われます。
故に、後継者不在率を見る場合、全体の不在率を見るのではなく、60代以降の不在率に着目する必要があると思います。
なぜなら、事業承継には、既存事業の磨き上げ又は事業転換等 、後継者の育成等を考慮すると、後継者を決めてから事業承継が完了するまでの移行期間は、約3年間以上から約10年間超の期間を要すると言われていること(「事業承継ガイドライン(第3版)令和4年3月改訂 中小企業庁」P14~P15、以下「ガイドライン」)、また、前述のとおり、中小企業等の経営者の平均引退年齢が75歳といわれているからです。
前記の帝国データバンクの動向調査によると、60代以降の後継者不在率について、60代が37.8%、70代が28.5%、80代が23.2%とされています。同じく大手の調査会社による同様の調査でも、60代は若干、帝国バンクよりも数値が大きくなっていますが、事業承継に着手すべき時期の60代~70代について、約3割が後継者が不在という状況になっています。
なお、帝国データバンクによる調査では、60代の後継者不在率は、2023年調査より悪化しているとのことです。
(備考)中小企業庁の資料(2016年調査)によると中小企業数は約381万者でしたが、2019年版中小企業白書によると、約358万者に減少しています。
事業承継の承継パターンと後継者難倒産の傾向とその要因等
一般的な事業承継のパターン
事業承継のパターンを分別すると、概ね、次の3つ分類出来ます。
1 親族内承継(子ども、兄弟姉妹、甥姪等)
2 従業員承継(MBO、EBO、内部昇格など)
3 第三者承継(M&A、外部招聘など)
かっては、従業員、取引先及びメインバンクの理解が得やすい親族内承継が事業承継の王道でありましたが、近年は、従業員承継やM&A・外部招聘による第三者承継の割合が上がっています。
この要因としては、親など親族が経営する事業の先の見通し(将来性)が不透明なことや事業承継に伴うリスク(倒産、経営者保証問題など)に対する不安などの事情によるものと指摘されています(ガイドラインP9)。
なお、前記の帝国データバンクの動向調査中「代表者・就任経緯別 推移(2020年以降)」(24年速報値)によれば、「内部昇格」が調査対象全体の36.4%、「M&Aほか(買収・出向・分社化の計)」が同20.5%、「外部招聘」が7.5%となっている一方、「同族承継」が32.2%となっています。
後継者難倒産の増加
少し、データが古くなりますが、日本政策金融公庫総合研究所が2020年に公表した調査によれば、廃業を予定していると調査回答した経営者(中小企業等)のうち、その廃業理由を聞いたところ、約3割(29.0%)が後継者難を挙げています(ガイドラインP9)。また、その廃業予定企業のうち、約3割が同業他社よりも良い業績を上げていると回答、今後10年間の将来性についても約4割の経営者が現状維持は可能と回答していました(ガイドラインP10)。
実際、2021年版「中小企業白書」(中小企業庁)によると、休廃業・解散する直前期の決算で当期損益が黒字であった、いわゆる黒字廃業の割合が廃業の約6割を占めていました(ガイドラインP11~P12)。
尤も、この後、継続的な人手不足の状況に加え、円高、原材料高、物価高、賃上げの圧力、直近では金利の上昇など中小企業を取り巻く外部環境は現在、より一層厳しいものとなっています。
このため、後継者難の中小企業のバランスシートも痛み、経営状態の悪化等に陥っている割合も4年前より高くなっていると思います。
M&Aによる第三者承継などの新たな事業承継手法は増えましたが、このように経営状態が悪化している中小企業がそう簡単に事業承継出来る保証はどこにもありません。このため、後継者不在の中小企業のうち、第三者承継等が難しい場合は、事業承継を諦め、廃業の途を選択せざるを得ないケースも多く発生しているようです。
前記の帝国データバンクの動向調査によると(重複しますが)「2024年1-10月に発生した、後継者がいないことで事業継続が困難になった『後継者難倒産』(負債1000万円以上、法的整理)は455件となった。過去最多だった2023年・564件とほぼ同水準(前年同期比1.7%減)で推移したものの、月次ベースでは2024年10月に過去最多の63件を記録するなど増勢ペースは加速している。」とされています。
また、「代表者の病気または死亡により、事業が立ち行かなくなり倒産に至ったケースは189件に上り、全体の4割を超える水準で推移している。」とされています。
しかし、今後は、外部環境の悪化等により、経営者の健康面の問題よりも、経営状態の悪化等により事業承継(事業継続)を断念、その結果、倒産又は廃業の選択をせざるを得ない中小企業の割合が上がってくるかと思われます。
事業承継を早期に検討する意義について
今後の課題(早期の検討、廃業の選択、経営者保証<債務整理>、事業の磨き上げなど)
消極面的事由から事業承継を早期に検討した方がよいと思う理由
前記のとおり、事業承継を検討、決断(準備の着手)をすべき60代~70代について約3割が後継者が不在であり、その状況については、直観的に言うと、かなり、時間がないという感想です(私見)。俗に言う「会社の磨き上げ」を含め、最低でも10年前後を要する事業承継ですが、60代以降になると、あきらめ感や新規の設備投資に後ろ向きになるなど、中々、磨き上げを行うには、腰が重たくなるような状況かと推察します。
しかし、事業承継の検討、決断をするなら、以下の消極的な事由から早い時期に越したことはないと思います。
1 親族外承継を選択したとしても、経営資源、事業が評価されないなど自社に魅力がないため、承継してくれるスポンサー(M&A等)がいるとは限らないこと
2 そもそも、事業者が属する業界自体が、また、扱っている製品のライフサイクルが衰退期にある可能性があること
3 上記1及び2のことから、円滑な廃業の機会を逸すること
ここ数年の官民挙げての事業承継やM&Aプラットフォーム構築の取組みが進み、中小企業・小規模事業者等に係る第三者承継は、以前よりハードルが下がり、中小企業経営者の会社の身売りという抵抗感は払拭されつつあります。今、正に、ブームという側面の様相さえ感じます。
しかし、業界内のルールがまだ整備されていない中、急速に業界が伸びた要因等から、手続きの透明性や妥当性が問題視されるトラブルなども昨年、表面化しました(買収企業が被買収企業の資金を持ち去り倒産させる、買収企業側がクロージング後、経営者保証解除に向けた協力をしないなど)。
このトラブルの根っこにあるのは、「情報の非対称性」に尽きると思います(筆者の過去の記事「事業承継型M&Aにおける売り手側の法務アドバイザー採用の必要性ついて」を参照)。(注1)
このため、拙速にM&A等を検討しても、上記のようなトラブルに巻き込まれる可能性もあり、それよりは、まず、自社を取り巻く外部環境(政治、経済、社会、業界、IT、技術進歩、事業を営んでいる地域の人口など)をよく分析し、そのうえで、自社の強みとは何か(内部環境の分析)を考え、今後、会社という「箱」ではなく「事業」を残せるかの見極めを検討をしてみるのが初めの第一歩だと思います。
事業承継の際に障壁にもなっているとも言われている「経営者保証」ですが、「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「保証ガイドライン」)(注2)の考え方が以前より金融機関等に浸透してきており、保証ガイドラインにより、新規の融資のみならず、既存の借り入れに対しても経営者保証の見直しが出来る可能性も生まれました。
さらには、この保証ガイドラインとは別に保証債務整理の進め方を整理した「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的な考え方」なども示され、廃業したとしても個人破産を回避出来る可能性の余地が若干広がりました。
この辺りの話しは、事業承継というより事業再生の領域に入ると思いますが、現在、相談する先(注3)も、整備されており、徒に、会社を延命するのではなく、傷が浅いうちにその進退を検討するのも一つの方策だと思料します。
(注1)最近の取組みとして、「中小M&Aガイドライン」が令和6年8月に改訂され、M&A仲介事業者に関わるもので、①利益相反に関する禁止事項の具体化②過剰な営業行為の禁止③手数料・提供業務の透明化④不適切な買い手の排除などの改訂内容が盛り込まれています。
また、令和6年10月に「中小・地域金融機関向け監督指針」も改訂され、M&A・事業承継における経営者保証を見直す枠組みとして、主たる株主等が変更になることを金融機関が把握した場合において、どうすれば経営者保証の解除の可能性が高まるか等の説明を事業者にすることを金融機関に求めることなどが盛り込まれました。
一方、業界団体である「M&A支援機関協会」(令和7年1月末現在で134社が加盟)では、不適切な譲受け事業者に対する対応として、令和6年10月より「特定事業者リスト」の運用を開始、広く情報を求めるほか加盟する事業者に関する苦情等の相談等の受付を行うなどの取組みも開始されています。
(注2)「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業及び小規模事業者等の経営者が金融機関等と締結している個人保証(経営者保証)について、保証契約を検討する際や、金融機関等の債権者は保証履行を求める際における、中小企業・経営者・金融機関の自主的なルールを定めたものです。このため、法的拘束力はありません。全国銀行協会と日本商工会議所が策定し、平成26年(2014年)2月から適用が開始されています。
(注3)まずは、経営者保証全般については、取引先金融機関、その他として、独立行政法人 中小企業基盤整備機構、お近くの商工会や商工会議所、または、保証債務の整理等に関することであれば、中小企業活性化協議会、ひまわりほっとダイヤル、REVIC(地域経済活性化支援機構)などが挙げられます。
〇「経営者保証に関するガイドラインをご存じですか」(全国銀行協会)
〇「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(金融庁)
積極面的事由から事業承継を早期に検討した方がよいと思う理由
自社の事業について、外部環境と内部環境(自社の事業の強み)について見極めをした後、事業を存続させることを選択した場合は、早期にその準備に着手した方がいいと思います。それは、
1 経営者の年齢、健康を考えると時間との闘いであること
2 事業の磨き上げ、又は、事業転換を実行するには相当程度の年数を要すること
3 現在、法人版事業承継税制(特例措置)、個人版事業承継税制、中小企業の経営資源集約化税制(設備投資減税、中小企業事業再編投資損失準備金)など税制面において、事業承継に係る税制措置が時限的に措置されていること
4 事業承継に係る各種の支援(相談、補助金など)及び経営者保証に関する支援策等について、各種の措置が講じられ、メニューが豊富なこと
上記3については、令和6年(2024年)12月20日に公表された与党税制大綱において、時限措置の延長や新たな措置の創設などが盛り込まれています。
なお、事業承継を決断し、何から手を付ければわからない場合など最初の一歩については、まずは、「事業承継・引継ぎ支援センター」にご相談するのがよろしいかと思います。同センターは、全国47都道府県に設置する公的相談窓口として、後継者不在の中小企業や事業承継に向けた取組について悩みを抱える中小企業者等に対して、事業承継計画の策定支援、専門家派遣、マッチング支援等をワンストップで対応しています。
(参考)
〇事業承継の支援策(中小企業庁)
〇経営資源集約化税制(中小企業庁)
〇法人版事業承継税制(特例措置)<中小企業庁>
〇事業承継税制特集<国税庁>
〇個人版事業承継税制の前提となる認定<中小企業庁>
〇個人版事業承継税制<国税庁>
これで、(その1)は終了します。続編として、(その2)では、経営者保証に係る事業承継の課題等、(その3)では、最近、新聞記事等で目にした事業承継の新らたな動きについて自身が考察した内容について、触れたいと考えています。
※記事の内容(情報)は、行政機関等のサイトや公表資料から当ブログ運営者が情報収集し、情報提供を目的として、現時点での一般的な概要を参考としてまとめたものになっています。特に、税制上の措置は、本記事の内容(情報)と今後、国会に提出される法案等の制定内容とが異なる場合もありますので、ご留意ください。個々の情報等に係る詳細な内容(各種利用の要件など)の確認とそれに対する具体的な対応(実行)については、弁護士、税理士等の専門家にご相談、ご確認いただき、自己責任においてご判断くださいますよう、お願いいたします。