カスタマーハラスメントついて事業主の措置義務に、就活等セクシュアルハラスメントも「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書」

(photo by AC)

 厚生労働省は8月8日、「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書」を公表しました。女間賃金差異の公表が任意とされている常時雇用労働者数101人以上300人以下の企業でも公表を義務化することほかカスタマーハラスメントについて事業主の措置義務とすること、就活等セクシュアルハラスメントについても雇用管理上の措置とすること等を求めました。
 以下では、その概要と留意点を記します。

目次

報告書の概要

 報告書概要では、「ハラスメント関係の相談件数は高止まり傾向にあり、カスタマーハラスメントや就活等セクシュアルハラスメントなどが社会問題化している、という課題がみられる」(「」内は、報告書概要から抜粋。以下同じ。)とし、これを踏まえ、「一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨を法律で明確化することが考えられる。」との考え方から、

 ① 「カスタマーハラスメントについては、企業横断的に取組が進むよう、対策強化が必要。労働者保護の観点から事
  業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当。定義については、社会全体で幅広く受け入れられるものの検討が適
  当であり、次の3つの要素のいずれも満たすものとして検討すべき。」とし、また、「取組の強化に当たり、業界団体
  等や業所管官庁との協力・連携が必要」とも指摘しています。
 ② さらに「 就活等セクシュアルハラスメントについても、事業主の雇用管理上の措置が講じられるようにしていくこ
  とが適当。」とまとめられています。

 報告書概要では、「ハラスメント関係の相談件数は高止まり傾向にあり、カスタマーハラスメントや就活等セクシュアルハラスメントなどが社会問題化している、という課題がみられる」(「」内は、報告書概要から抜粋。以下同じ。)とし、これを踏まえ、「一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨を法律で明確化することが考えられる。」との考え方から、以下のようにまとめられています。

①「スタマーハラスメントについては、企業横断的に取組が進むよう、対策強化が必要。労働者保護の観点から事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当。定義については、社会全体で幅広く受け入れられるものの検討が適当であり、次の 3つの要素のいずれも満たすものとして検討すべき。」とし、「 取組の強化に当たり、業界団体等や業所管官庁との協力・連 携が必要」とも指摘しています。
② 「就活等セクシュアルハラスメントについても、事業主の雇用管理上の措置が講じられるようにしていくことが適当。」

    【出典】「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書(概要)~女性をはじめとする全ての労働者が安心して活躍できる就業環境の整
       備に向けて~」(厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/001285698.pdf)

【出典】「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書
要)~女性をはじめとする全ての労働者が安心して活躍できる就業環境
の整備に向けて~」(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11
909500/001285698.pdf)

 また、上記3要素のうち、「社会通念上相当な範囲を超える言動及び手段・態様」の具体例として、次のものを例示しています。

    【資料】「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書(概要)~女性をはじめとする全ての労働者が安心して活躍できる就業環境の整
       備に向けて~」(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/001285698.pdf))

【資料】「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書
要)~女性をはじめとする全ての労働者が安心して活躍できる就業環境
の整備に向けて~」(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11
909500/001285698.pdf))

カスハラ対策の必要性

現在のカスハラの状況と企業の対応状況

 カスタマーハラスメント(顧客、取引先等からの著しい迷惑行為等)については、令和2年に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号。以下「パワハラ防止指針」という。)に事業主が取り組むことが望ましい事項として明記されました。

 また、令和3年には「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」を開催が開催され、令和4年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下、「対策企業マニュアル」という。)が作成され、この対策企業マニュアルを参考にしつつ、業界団体や事業者において個別に対応マニュアルを策定を行っているというのが現況のようです。。

 しかし、同報告書によれば、次のような実態等を指摘しています。
 ① 厚労省令和5年度調査によると、過去3年間にカスタマーハラスメントを受けた労働者は全労働者のうち 10.8%と
  なっており、パワーハラスメントよりは少ないが、セクシュアルハラスメントよりは多い状況にあること
 ② いわゆるカスハラによることによる労災認定もあり、この中には、私のブログでも取り上げた被災労働者が自殺(
  未遂を含む。)した事案もあること(「カスハラに起因する自殺に労災認定」
 ③ 厚労省令和5年度調査によると、企業側の対応として、相談体制の整備、被害労働者へのメンタルヘルス不調への
  対応等に取り組む企業は一定数みられるが、「特にない」としている企業は従業員規模 1000 人以上の企業においても
  37.2%、企業規模が小さくなるとその割合は高い状況(300~999 人規模企業:48.9%、100~299 人規模企業:62.0
  %、99 人以下規模企業:73.8%)にあること
 ④ 厚労省令和5年度調査によれば、勤務日にほぼ毎日顧客と接している者のうち 17.4%はカスタマーハラスメントを
  経験している状況にあること
 ⑤ 対策に積極的に取り組んでいる企業ではカスタマーハラスメントの被害が少ない状況にあること

 しかし、同報告書によれば、次のような実態等を指摘しています。

① 厚労省令和5年度調査によると、過去3年間にカスタマーハラスメントを受けた労働者は全労働者のうち 10.8%となっており、パワーハラスメントよりは少ないが、セクシュアルハラスメントよりは多い状況にあること
② いわゆるカスハラによることによる労災認定もあり、この中には、私のブログでも取り上げた被災労働者が自殺(未遂を含む。)した事案もあること(「カスハラに起因する自殺に労災認定」
③ 厚労省令和5年度調査によると、企業側の対応として、相談体制の整備、被害労働者へのメンタルヘルス不調への対応等に取り組む企業は一定数みられるが、「特にない」としている企業は従業員規模1000人以上の企業においても37.2%、企業規模が小さく
なるとその割合は高い状況(300~999 人規模企業:48.9%、100~299 人規模企業:62.0%、99 人以下規模企業:73.8%)にあること
④ 厚労省令和5年度調査によれば、勤務日にほぼ毎日顧客と接している者のうち 17.4%はカスタマーハラスメントを経験している状況にあること

⑤ 対策に積極的に取り組んでいる企業ではカスタマーハラスメントの被害が少ない状況にあること

カスタマーハラスメント対策強化の必要性及び企業における取組の必要性等

 同報告書では、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全体に対する国の施策として「国はハラスメント対策に総合的に取り組む必要がある。」という考え方の起点を示しつつ、カスハラ防止対策の意義を「カスタマーハラスメントを防止することは、労働者を守るという観点のみならず、個別企業における働きやすい環境を整備することにより、労働者の確保・定着に資するとともに、業種、業界のイメージアップ、さらには顧客等の利益につながるものである。」としています。

 そして、前記の①から⑤のような現況等を踏まえ、「企業横断的にカスタマーハラスメント対策への取組が進むよう、対策を強化することが必要である。」としています。

 以上のようなカスハラ状況等とカスハラ対策防止対策の必要性等を踏まえ、「従前の4種類のハラスメントの例に倣えば、法律においてカスタマーハラスメント対策に係る措置義務を規定しつつ、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、指針において明確化することが考えられる。」と提言しています。

就活等セクシュアルハラスメントも雇用管理上の措置に

(photo by AC)

就活等セクシャルハラスメントの実態

 同報告書では、「厚労省令和5年度調査によると、就活等セクシュアルハラスメントについて過去3年間に相談があった企業は 0.7%に過ぎないが、2020~2022 年度卒業でインターンシップ中にセクシュアルハラスメントを経験した者は 30.1%、2020~2022 年度卒業で就職活動中にセクシュアルハラスメントを経験した者は 31.9%という状況である。」としています。
 

 一方、勤務先で労働者がセクシュアルハラスメントを受けた経験が 6.3%となっており、就職活動等においてセクシュアルハラスメントを受けたとする学生等の割合は相対的に多い状況となっているようです。

就活等セクシャルハラスメント対策強化の必要性及び企業における取組の必要性等

 就活等セクシャルハラスメントについても、カスタマーハラスメントと同様に、ハラスメント全体に対する国の施策として「国はハラスメント対策に総合的に取り組む必要がある。」という考え方の起点を示しつつ、前記の就活等セクシャルハラスメントの実態を踏まえ、

 「ハラスメントは、共通して、『職場において・・・労働者の就業環境を害されること』と規定されており、事業主の雇用管理上の措置義務による保護の対象については、雇用されている労働者が念頭に置かれている。就職活動中の学生等は労働者ではないものの、インターンシップや就職活動中にセクシュアルハラスメントがあれば、企業にとっては社会的信用を失い、損失を被ることとなることから、職場における雇用管理の延長と捉え、就活等セクシュアルハラスメントについても、事業主に義務付けられた雇用管理上の措置が講じられるようにしていくことが適当である。」としています。

 さらに、「特にセクシュアルハラスメントは、性差別意識を伴うものであることに加え、一旦発生すると取り返しのつかない重大な損失を被る事案も見られること等から、就職活動中の学生等の求職者に対するセクシュアルハラスメントを対象とすることが妥当であると考えられる。」と付け加え、まだ、雇用関係にない(労働基準法による労働者でない)就職活動中の学生等にハラスメントの対象とする必要性を説いています。

女性起業家の半数がセクハラ被害” スタートアップ業界で何が(NHK報道より)

 8月29日(木)のNHKの朝のニュース番組「おはよう日本」で、スタートアップ業界での女性起業家へのセクハラ被害が取り上げられていました。ニュースではセクハラ被害により起業を諦めた女性が取材に応じたほか「『7月に発表されたスタートアップ業界のセクハラに関するインターネット調査において、回答した女性153人のうち47.7%、女性起業家に限定すると52.4%が『過去1年以内にセクハラ被害を受けた』と回答しました。」と報道されています。

 事業承継におけるM&Aと並び日本経済の起爆剤として、政府も施策において後押ししていて、最先端を走っているいるようイメージがあるスタートアップ企業(業界)ですが、被害の内容は不適切な発言や身体的接触のほか、望まない関係や見返りを強要される「対価型セクハラ」が3割にも上っており、犯罪行為に当たる可能性がある行為なども普通に行われているようです。

 専門家によれば「男性優位の業界構造」など根深い構造的な問題(巣)もあるようで、取材によれば、今年1月から業界有志が参加する勉強会も始まっているとのこと。

 しかし、取材に応じた女性たちの話しからは、今回、取り上げられたようなセクハラ被害はまだまだ氷山の一角のようで、まだ、隠れて目に見えない実態も含め深刻で、被害者になり得る方々の保護のみならず、スタートアップ業界等の今後発展も含め、早めの保護策の実施が必要かと思います。

 今回、検討会の報告書に盛り込まれたカスタマーハラスメント等について事業主の措置義務の法制化ですが、これから関係省庁にて立法作業に入り、来年の通常国会に法案が提出される予定で作業が進められていくと思います。

 今回の取材で明らかになったこれらのセクハラ被害ですが、カスハラの立法化等に併せ、これらにも対応した法制化も時間的には間に合うと思います。ハラスメントの問題の根っ子こは「強者と弱者」という構図なので、法制化の内容及びそれに対応する指針(ガイドライン)作りについても、そう難題はないかと思料します。起業家ということで、労働者と一線を画す整理が必要なら、本年11月1日に施行されるいわゆるフリーランス法を参考に立法化することも一つの案として、考えられると思います。

 ハラスメントの話ではありませんが、中小企業事業承継のM&Aにおいて、一部の業者がクロージング後、譲渡側事業者の預金を引き出したまま行方知らずになる、経営者保証の解除に向けた協力をしてくれないなど、先進的なビジネスの分野ですが、結局はそれに携わるのは生身の人間なので、その人間個体の資質により、問題が生じている例が最近、散見されます。

 よって、法制化による保護も喫緊の課題かと思いますが、M&A業界と同じように、業界内の自主的な取組(自浄作用)がまず肝要だと思います。

(photo by AC、イメージ画像)
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この記事を書いた人

勤務特定社労士。左記国家資格以外に、BSA(事業承継アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、TAA(事業再生アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、事業承継・M&Aエキスパート(一般財団法人金融財政事情研究会)の認定資格を取得。現在は、上記いずれの資格とは、直接には関係のない公的年金関係の団体に従事する勤め人です。保有資格に関連する実務経験はありませんが、折角、保有している資格を活かしたく、個別労働関係紛争に関する事項、労働法務デューデリジェンス、中小企業の事業再生や事業承継M&A、経営者保証問題について、中小企業庁が公表している各種ガイドライン、M&A関連書籍等及びセミナー等を通じて、自己研鑽・研究しています。現在(令和6年)、58歳。役職定年間近の初老の職業人です。

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