労働者に終業時刻後の業務を個人事業主の形式で行わせることについて

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目次

概要

 内閣府は、今年6月「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」を開催し、「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題する応募アイデアを「優勝アイデア」として表彰しました。

 この件についての個別のコメントは控えますが、この件につき、全国社会保険労務士連合会が7月に会長名で声明文を公表、同じく同月に日本労働弁護団からも談話文が公表されるなど各方面から意見等が出ているようです。

労働基準法等を所管する厚生労働省の通知文書見解

 この「優勝アイディア」を採用しようと考えている事業者の方が現在、どれくらい、いらっしゃるか、わかりませんが、労働基準関係諸法令を所管する厚生労働省(厚生労働省労働基準局監督課長)から各都道府県労働局労働基準部長宛てに「労働者に終業時刻後の業務を個人事業主の形式で行わせることに関する相談への対応について」と題する通知文書が8月に発出されているので、その要点をご紹介したいと思います。

 通知文書では、通知文書標題に続く文書の目的又は趣旨を記す前文の箇所で 「今般、労働者に定時後の残業相当分の業務を個人事業主の形式で行わせるというアイデア(注)に関する報道がなされているところである。当該アイデアについて個別に言及しないが、」と前置きしたうえで、大要、以下のようなことが書かれています。

労働者性判断の従来からの考え方の再確認(前文)

 通知文の標題に続く、文書の趣旨・目的を示す前文の部分で、一般論と前置きしたうえで、「実態として労働基準法上の労働者に該当する場合には労働基準関係法令が適用され、労基法上の労働者に該当するか否かの判断に当たっては、実質的に使用従属関係があるかどうかについて、働き方の実態を勘案して判断する必要があること」と書かれています。
 
 この点については、労働基準法における「労働者性」の判断基準について、「『労働者性』の判断に当たっては、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要がある場合がある」(労働基準法研究会報告、昭和60年12月19日)とした内容を再確認したものとなっています。

事業者等から相談があった場合の留意事項(通知文書本体)

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 ※通知文書の内容をそのまま引用しています(マーカー部分は、筆者が追記)。

1 労働基準関係法令における考え方について
 労基法上の労働者に該当するか否かについては、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断する必要がある。
 一般論として、終業時刻まで労働者として企業で行っている業務と同様の業務を終業時刻以降も引き続き個人事業主として受託するような場合、終業時刻までとそれ以降で使用従属関係に変化が生じなければ、形式上個人事業主としての業務委託契約が締結されていたとしても、実態として労基法上の労働者であると判断され、終業時刻以降の業務について割増賃金の支払い等労働基準関係法令に基づく対応が必要となる。
2 相談に係る対応について
 上記1の考え方について、都道府県労働局及び労働基準監督署の監督部署職員(非常勤職員を含む。)及び総合労働相談員に対して周知徹底するとともに、労働者に終業時刻後の残業相当分の業務を個人事業主の形式で行わせることに関する労働基準関係法令の適用について相談があった場合には、上記1の考え方に基づき対応すること。

雇用環境・均等局にも協議済みであることを申し添え(前文)

 内容が前後しますが、通知文書前文の末文において「なお、本件については雇用環境・均等局にも協議済みであることを申し添える。」と付け加えがされています。
 
 この「雇用環境・均等局」というのは、厚生労働省本省の部局で、厚生労働省の地方支分部局として設置されている都道府県労働局の雇用環境・均等部(北海道・東京・神奈川県・愛知・大阪・兵庫・福岡の7労働局、それ以外の労働局は、雇用環境・均等室)の上位機関にあたります。

 雇用環境・均等部等は、都道府県労働局で実施している個別労働紛争解決制度として、次の法律に基づく事務を所掌しています。実際には、各都道府県労働局内、全国の労働基準監督署等の約379か所に「総合労働相談コーナー」が設置されており、同コーナーには、総合労働相談員が配置されています。総合労働相談員は、セクハラ、パワハラ・いじめ、解雇等あらゆる分野の労働問題について、労使双方からの相談に応じています。

 本通知文書では、本省担当部局とも協議済みであることを踏まえ、現場の監督部署職員及び総合労働相談員に対して周知徹底を図ることをうたっていることから、今回の件に関して、労使から相談があった場合は、本通知文書の内容を基本として、個別の事情を考慮しながら、相談対応がなされることが、想定されます。

 ■個別労働関係紛争の解決促進に関する法律(平成13年法律第112号、促進法)に基づく個別労働紛争解決制度(総合
  労働相談センターにおける都道府県労働局長による紛争解決の相談、是正指導、紛争調整委員会によるあっせん)
  ⇒時間外賃金未払い、解雇など

 ■個別の法律に基づく紛争解決援助制度(都道府県労働局長による助言・指導・勧告、機会均等調停会議・両立支援調
  停会議・均衡待遇調停会議・優越的言動問題調停会議による調停)
  ⇒セクハラ、マタハラ、同一労働同一賃金の問題、パワハラなど
 ・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号、雇用機会均等法)
 ・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号、育児介護休業法)
 ・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号、パート・有期労働法)
 ・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号、労
  働施策総合推進法)

 ■個別労働関係紛争の解決促進に関する法律(平成
  13年法律第112号、促進法)に基づく個別労働紛
  争解決制度(総合労働相談センターにおける都道
  府県労働局長による紛争解決の相談、是正指導、
  紛争調整委員会によるあっせん)
  ⇒時間外賃金未払い、解雇など

 ■個別の法律に基づく紛争解決援助制度(都道府県
  労働局長による助言・指導・勧告、機会均等調停
  会議・両立支援調停会議・均衡待遇調停会議・優
  越的言動問題調停会議による調停)
  ⇒セクハラ、マタハラ、同一労働同一賃金の問
   題、パワハラなど
 ・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の
  確保等に関する法律(昭和47年法律第113号、雇
  用機会均等法)
 ・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労
  働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号、
  育児介護休業法)
 ・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改
  善等に関する法律(平成5年法律第76号、パート
  ・有期労働法)
 ・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安
  定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年
  法律第132号、労働施策総合推進法)

 なお、雇用環境・均等部等が所掌する個別労働紛争解決制度及び紛争解決援助制度以外に、他の部局が所掌する紛争解決援助制度がありますので、簡単にご紹介します。 

 ■障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号、障害者雇用促進法)による紛争解決援助制度(都道府
  県労働局長による助言・指導・勧告、障害者雇用調停会議による調停)
  ⇒障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供義務の問題など

 ■労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号、労働者派遣法)に
  よる紛争解決援助制度(都道府県労働局長による助言・指導・勧告、調停会議による調停)
  ⇒派遣労働者の同一労働同一賃金の問題など

 ■障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法
  律第123号、障害者雇用促進法)による紛争解決
  援助制度(都道府県労働局長による助言・指導・
  勧告、障害者雇用調停会議による調停)
  ⇒障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供
   義務の問題など

 ■労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働
  者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号、
  労働者派遣法)による紛争解決援助制度(都道府
  県労働局長による助言・指導・勧告、調停会議に
  よる調停)
  ⇒派遣労働者の同一労働同一賃金の問題など

 上記のうち、障害雇用促進法については、都道府県労働局職業安定部が所掌しており、相談受付等の窓口は、ハローワーク(公共職業安定所)となっています。また、労働者派遣法については、同需給調整事業部(需給調整事業第二課<]東京の場合>)が所掌し、相談などの受付窓口は直接、都道府県労働局(需給調整事業第二課<東京の場合>等)となっています。


   


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この記事を書いた人

勤務特定社労士。左記国家資格以外に、BSA(事業承継アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、TAA(事業再生アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、事業承継・M&Aエキスパート(一般財団法人金融財政事情研究会)の認定資格を取得。現在は、上記いずれの資格とは、直接には関係のない公的年金関係の団体に従事する勤め人です。保有資格に関連する実務経験はありませんが、折角、保有している資格を活かしたく、個別労働関係紛争に関する事項、労働法務デューデリジェンス、中小企業の事業再生や事業承継M&A、経営者保証問題について、中小企業庁が公表している各種ガイドライン、M&A関連書籍等及びセミナー等を通じて、自己研鑽・研究しています。現在(令和6年)、58歳。役職定年間近の初老の職業人です。

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