介護事業者、訪問介護事業者で人手不足が深刻化、倒産増加も
人手不足の現状(商工会議所の調査結果)
日本商工会議所並びに東京商工会議所が令和5年9月28日に発表した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」結果(日商調査)によれば「人手が『不足している』との回答が7割近く(68.0%)。
2015年の調査実施以降、最大。そのうちの6割以上(64.1%)が『非常に深刻』(6.9% )人手不足を理由とした廃業等、今後の事業継続に不安)または『深刻』(57.2% 事業運営に支障)と回答。
人手が『不足している』との回答は、介護・看護業(86.0%)、建設業(82.3%)、宿泊・飲食業(79.4%)で約8割となり、最も低い製造業でも6割近い(58.8%)。」とされています。
また、業種別による人手不足の深刻度については、「『非常に深刻』と『深刻』の合計は、介護・看護業88.4%)、宿泊・飲食業(82.7%)で高い。2024年問題を抱える運輸業(75.0%) 、建設業(65.6%)でも7割前後と高い割合となった。」とされています。
今回のテーマから少し外れますが、2022年11月にOpenAIが公開した人工知能チャットボットChatGPTにより、最近では書店の店頭でもChatGPT関連の書籍や雑誌の特集記事をよく目にしますが、上記の「人出不足」の割合が高い業種は一部を除き、AIで全面的に代替が難しいとされている職種の代表格と言われている職種でもあります。
今後、生成AIの台頭により就業構造のドラスティクな変化が起こると言われていますが、その入り口に立つ現在において、生成AIでは代替が難しい職種の人出不足が顕著な状況を見ると、逆に、これらの業界におけるAI(人工知能)とICT(情報通信技術)の活用は非常に重要な課題とも言えるのではないかと考えています(私見)。

介護業界における人手不足
さて、話を元に戻しますが、上記の日商調査の発表の少し前(9月15日)に、東京商工リサーチが「訪問介護事業者の倒産動向調査(23年1-8月)」結果を発表しています。
レポートでは、「2023年1月~8月の「訪問介護事業者」の倒産は44件(前年同期30件)で、前年同期の約1.5倍に達した。調査開始の2000年以降、同期間では過去最多を更新した。(省略)44件のうち、コロナ倒産は17件(前年同期4件)、人手不足倒産は9件(同1件)で大幅に増加した。(省略)デイサービスなどの通所・短期入所介護事業や有料老人ホームなどを含む老人福祉・介護事業者では、倒産増が目立つのは訪問介護事業だけだ。それだけヘルパー不足や物価高が訪問介護事業に打撃を与えており、早急な解消も見通せず、今後も倒産が増える可能性が高まってきた」と分析しています。
日商調査の調査対象社数6,015社中「介護・看護業」の調査対象社数が50社(調査全体の1.6%)となっており、日商調査の目的自体が介護事業だけを対象にしたものではなく、中小企業における人手不足の状況と対策、女性のキャリアアップ支援等について、中小企業の実態を把握することで、日本商工会議所等の意見・要望活動に活かすためとされていることから、調査対象ベースが前記の東京商工リサーチにおける調査対象とは必ずしも同一ではないため、この二つの調査結果を関連付けて理論整然と説明することは出来ませんが、傾向として、「人手不足」の問題は、介護事業者にとっては大きな問題となっているようです。
実は、私の実母も要介護認定を受けており、いわゆるデイサービスに週に何回か通っていますが、2、3年前と比べ、施設のスタッフがかなり減ったと言っています。件のホームヘルパーとは違いますが、最近の介護事業運営の変化を身近かに感じました。
2040年問題
今後、2025年には、団塊の世代が全員75歳以上となり、2040年には高齢者人口がピークを迎え、85歳以上人口が急増し、医療・介護双方のニーズを有する高齢者など様々なニーズのある要介護高齢者が増加する一方、生産年齢人口が急減することが見込まれています。
令和4年3月24日に開催された「社会保障審議会 介護保険部会(第92回)」では、「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」と題する資料中、第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づき、都道府県が推計した介護職員の必要数を集計しており、
・2023年度には約233万人(+約22万人(5.5万人/年))
・2025年度には約243万人(+約32万人(5.3万人/年))
・2040年度には約280万人(+約69万人(3.3万人/年))
としています。しかし、足元の介護事業における「人手不足」の問題は、前記のとおりです。
今後、2025年には、団塊の世代が全員75歳以上となり、2040年には高齢者人口がピークを迎え、85歳以上人口が急増し、医療・介護双方のニーズを有する高齢者など様々なニーズのある要介護高齢者が増加する一方、生産年齢人口が急減することが見込まれています。
令和4年3月24日に開催された「社会保障審議会 介護保険部会(第92回)」では、「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」と題する資料中、第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づき、都道府県が推計した介護職員の必要数を集計しており、
・2023年度には約233万人(+約22万人(5.5万
人/年))
・2025年度には約243万人(+約32万人(5.3万
人/年))
・2040年度には約280万人(+約69万人(3.3万
人/年))
としています。しかし、足元の介護事業における「人手不足」の問題は、前記のとおりです。
第9期介護保険事業(支援)計画の指針(案)
指針(案)の概要
「社会保障審議会 介護保険部会」は、今夏、第9期介護保険事業(支援)計画の基本指針(大臣告示)のポイント(案)を公表しました(正式な告示は、本年12月頃)。
同(案)では、今後の介護事業を取り巻く環境について「高齢者人口がピークを迎える2040年を見通すと、85歳以上人口が急増し、医療・介護双方のニーズを有する高齢者など様々なニーズのある要介護高齢者が増加する一方、生産年齢人口が急減することが見込まれている。」としています。
これらを背景に、第9期に向けた同基本指針の見直しのポイントとして「地域包括ケアシステムを支える介護人材確保及び介護現場の生産性向上」を掲げ、具体的な施策として「 介護人材を確保するため、処遇の改善、人材育成への支援、職場環境の改善による離職防止、外国人材の受入環境整備などの取組を総合的に実施」「都道府県主導の下で生産性向上に資する様々な支援・施策を総合的に推進。介護の経営の協働化・大規模化により、人材や資源を有効に活用。」等を掲げています(マーカー部分は、筆者が追記)。
介護業界の人手不足の原因と解消
一般的に人手不足の原因と言われているのが「少子高齢化による労働人口の減少」「介護職員の低賃金や労働環境の悪さ」「介護職員の離職率の高さ」の3つです。
私はこのうち、やはり、人手不足を解消するには、介護職員の労働条件の改善(賃金待遇、労働環境の改善)に尽きると考えています。先に、記した私の母親のことですが、自分の実母のことさえ、一時容態が酷い時の介護又は看護する側の精神的負担は大きかったです。苛立ち、不安、怒りなど色々な感情が自分と母親に向けられました。
これが仕事とはいえ、ましてや他人です。このような事を言うとお叱りを受けるかもしれませんが、肉体的な負担やストレスに見合う満足のいく報酬を得られるような賃金水準にすることが、人手不足を解消するための即効性のある対応かと考えています。
2000年(平成12年)に施行された介護保険法ですが、原則、3年に1回、制度の見直しや介護報酬の改定が行われてきています。
現在までに、2012年(平成24)の「介護職員処遇改善加算」、2019年(平成31年・令和元年)の「特定処遇改善加算」、2022年(令和4年、臨時改定)の「ベースアップ等支援加算」などの創設により、介護職員の処遇改善のためのオプションというべき施策が行われてきました。
しかし、抜本的な賃上げは、介護報酬のプラス改定(報酬単価の引上げ)しかないように思われます。現在、 社会保障審議会(介護給費費分科会)において次期介護報酬の改定について、議論が進められており、年末から年明けには結論が出るようです。
まとめ
介護経営の協同化・大規模化、経営資源の集約化・スキーム作り
前記の第9期介護保険事業(支援)計画の基本指針(大臣告示)のポイント(案)中では、「介護の経営の協働化・大規模化により、人材や資源を有効に活用。」が施策として促されています。
ここでは詳細な記述はしませんが、ここで言う”協働化・大規模化”とは、具体的には以下のものが念頭に置かれているようです。
・協働化⇒社会福祉連携法人の活用、協同組合の活用、社会福祉協議会による連携や社会福祉法人の法人間
連携
・大規模化⇒合併、事業譲渡、法人間連携
さらに、令和4年5月25日の財政制度等審議会建議において、「介護経営の大規模化・協働化を臆病なしていくべき。介護給付費のいたずらな増大を防ぐ観点からは、規模の利益を生かすなどこうした取組(大規模化・協働化)に成功し効率的な運営を行っている事業所等をメルクマールとして介護報酬を定めていくことも検討していくべき」(カッコ内は筆者が追記)としていることなどから、今後、協働化・大規模化については、より一層の促進が図られていくものと思われます。
また、厚生労働省では、既に、令和2年9月11日に「社会福祉法人の事業展開等に係るガイドライン」及び「合併・事業譲渡等マニュアル」を公表、同 「社会福祉法人会計基準」及び「会計処理等の運用上の取扱いについて」の改正を行い、社会福祉法人間の合併又は社会福祉法人の事業譲渡がスムーズに行えるよう、環境作りが整備されているほか、令和4年4月1日には「社会福祉連携推進法人制度」が創設されています。
協働化・大規模化を進めるにあたっては、介護老人福祉施設の経営主体の約95%が社会福祉法人(令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況 厚生労働省)、居宅サービス事業所のうち訪問介護及び訪問入浴介護の約7割が営利法人になっている現状を見ると、バックボーンになっている法律や税制面の違い、目的(公益性と営利性)の違いなどハードルがあり、これらの経営主体の集約化については、一足飛びには行けないようです。。
例えば、社会福祉法人と営利会社との合併が出来るようなスキーム作り(法改正)又は社会福祉法人が新会社を作り営利会社と合併するなどのスキームなど柔軟な仕組みの導入があると少しはそのような方向に向かうのではと思います。
また、少し、思い付きになりますが、社会福祉連携法人へ投資ファンドへ出資が出来るような仕組み。
投資ファンドは通常、株式の売却など出口戦略(イグジット)を意識しますが、高齢者が増加していく2040年までは、当該法人から入る配当金等(仮称)に優遇税制を設けるなどの仕組みの導入などが考えられます。
このような民間による経営資源の投入を通じ、経営資源の集約化の促進を図れば、現状よりも良い方向に進むのではないでしょうか。
前記の第9期介護保険事業(支援)計画の基本指針(大臣告示)のポイント(案)中では、「介護の経営の協働化・大規模化により、人材や資源を有効に活用。」が施策として促されています。
ここでは詳細な記述はしませんが、ここで言う”協働化・大規模化”とは、具体的には以下のものが念頭に置かれているようです。
・協働化⇒社会福祉連携法人の活用、協同組合の活
用、社会福祉協議会による連携や社会福祉法人の
法人間連携
・大規模化⇒合併、事業譲渡、法人間連携
さらに、令和4年5月25日の財政制度等審議会建議において、「介護経営の大規模化・協働化を臆病なしていくべき。介護給付費のいたずらな増大を防ぐ観点からは、規模の利益を生かすなどこうした取組(大規模化・協働化)に成功し効率的な運営を行っている事業所等をメルクマールとして介護報酬を定めていくことも検討していくべき」(カッコ内は筆者が追記)としていることなどから、今後、協働化・大規模化については、より一層の促進が図られていくものと思われます。
また、厚生労働省では、既に、令和2年9月11日に「社会福祉法人の事業展開等に係るガイドライン」及び「合併・事業譲渡等マニュアル」を公表、同 「社会福祉法人会計基準」及び「会計処理等の運用上の取扱いについて」の改正を行い、社会福祉法人間の合併又は社会福祉法人の事業譲渡がスムーズに行えるよう、環境作りが整備されているほか、令和4年4月1日には「社会福祉連携推進法人制度」が創設されています。
協働化・大規模化を進めるにあたっては、介護老人福祉施設の経営主体の約95%が社会福祉法人(令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況 厚生労働省)、居宅サービス事業所のうち訪問介護及び訪問入浴介護の約7割が営利法人になっている現状を見ると、バックボーンになっている法律や税制面の違い、目的(公益性と営利性)の違いなどハードルがあり、これらの経営主体の集約化については、一足飛びには行けないようです。。
例えば、社会福祉法人と営利会社との合併が出来るようなスキーム作り(法改正)又は社会福祉法人が新会社を作り営利会社と合併するなどのスキームなど柔軟な仕組みの導入があると少しはそのような方向に向かうのではと思います。
また、少し、思い付きになりますが、社会福祉連携法人へ投資ファンドへ出資が出来るような仕組み。
投資ファンドは通常、株式の売却など出口戦略(イグジット)を意識しますが、高齢者が増加していく2040年までは、当該法人から入る配当金等(仮称)に優遇税制を設けるなどの仕組みの導入などが考えられます。
このような民間による経営資源の投入を通じ、経営資源の集約化の促進を図れば、現状よりも良い方向に進むのではないでしょうか。