山形屋(鹿児島市)の事業再生計画案承認(DDS・DESとスポンサー支援)

(photo by AC)
目次

事業再生計画案の概要

事業再生ADRの申請

 創業が1751年(宝暦元年)、1917年(大正6年)に株式会社として設立、鹿児島県内を代表する老舗百貨店であり、地元の人々に愛され続けられ、鹿児島の経済を牽引してきた存在でもある百貨店の「山形屋」が長期的な百貨店離れに加え、コロナ禍での売り上げ減などもあり業績が低迷、借入金の返済が行き詰まり、昨年、昨年12月に事業再生ADRの手続きを申請、先月28日にメインバンクである鹿児島銀行を含む17の取引金融機関による債権者会議が開かれ、全金融機関が同意し、事業再生計画案が承認されたということです。

事業再生ADRとは?

 事業再生ADRとは(「▼」をクリック(タップ)でコンテンツが開閉できます。)。

 事業再生等の主な手段は、下表のとおりとなっています(個別の説明は、今回は省略させていただきます。)このうち、事業再生ADRとは、私的整理と区分される中で、更に、準則型に位置付けられています。
 
 ADRとは「ADR (Alternative Dispute Resolution)は「裁判外紛争解決手続」の略称で、訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与してその解決を図る制度のことです。
 
 事業再生ADR制度は「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく認証ADR制度に立脚しています。」(法務省ホームページより)。
 
 事業再生ADR制度の法的根拠は、民間主体の事業再生環境を整備するべく、2007年(平成19年)に「産業活力再生特別措置法」の改正により、創設された制度です。
 
 仕組みは、 経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者(認証紛争解決事業者)が、債務者(企業)と債権者(主に金融機関)の間に入って調整を行い、事業再生計画を策定、法的整理手続きによらずに債権者の協力を得ながら事業再生を図ることで、事業価値の修復や債務の猶予・減免などを行い、経営困難な企業の再建を目指します。
 
 その特徴は、一言で言うと、法的整理と私的整理のメリットの融合版と言え、相談や支援を非公開で進めることが可能で、原則として、金融債権者(金融機関等)だけとの間で調整を進める手続であるため、商取引債権者等(取引先等)とは、従来どおり取引を継続することが可能です(風評被害の防止。私的整理面のメリット)。
 
 今回でいえば、山形屋が事業再生ADRの手続きに入っていることについては、本年5月にメディアにスクープされ、世に知られることになりましたが、実際には、昨年の5月頃からメインバンクである鹿児島銀行ほか金融機関か返済を猶予し、再建に向けた協議を行い、昨年12月に事業再生ADR申請を行っています。
 
 スクープされた本年5月にはほぼ再建計画(案)が固まり、関係者の実質的合意は整ったいたと思われ、この間、商取引債権者等からの取り立て騒ぎや従業員の離散などの混乱もなく、営業を通常どおり、継続出来ることが出来ました。
 
 逆に、スクープの時期と再建計画(案)の承認のタイミングが近接しており、意図されたリークかな?なんて思うところもあります。 
 
 一方、法的整理面のメリットとして、正当事者だけでなく、信頼できる専門家の監督下で手続が進行されるという安心感があり、債務者及び債権者双方に税制上の優遇措置が適用されます。
 
 ただし、事業再生計画案を決議する債権者集会(今回の山形屋の場合でいうと、鹿児島銀行を含む17の金融機関による債権者集会)において、一者でも反対(不同意)が出た場合は、再生計画案は不成立となり、法的整理に移行されます(一定の法的整理との連携あり、法的整理面のメリット)。
 
 現在、経済産業大臣の認定を受けた認証紛争解決事業者は「事業再生実務協会(JATP)」のみとなっています。また、法的根拠については、産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)に継承されています。

金融支援の概要(DDS、DES、リスケなど)

 メディア各社によると、負債総額は約360億円。
 
 同じく、メディア各社によると、金融支援(財務状況の再構築)については、詳細は明らかにされていませんが、DDS(Debt Debt Swap、デットデットスワップ)が約70億円、DES(Debt Equity Swap、デットエクイティスワップ)で約40億円の計約110億円、残りの約250億円については、返済を5年間猶予(リスケ)して、その間に経営再建を進める計画とみられると報じられています。
 
 なお、同計画では、5年後の2029年2月期決算でグループ売上高720億円、営業利益16億円、営業利益率2.3%を目指すとしているところ。

 DDSとは(「▼」をクリック(タップ)でコンテンツが開閉できます。)。

 DDS(Debt Debt Swap、デットデットスワップ)とは、別名、「資本性劣後ローン」と言われています。債権者である金融機関が債権の一部又は全部について、返済順位を劣後する債権に振り替えることです。
 
 これにより、弁済が長期間据え置かれ(その間は、十分に低い金利、例えば、事務コスト相当の金利が適用される。)、資金繰りの改善に繋がります。金融機関から見れば、債権放棄と違い、債権の将来の回収可能性が残っており、取り組む際のハードルは低いようです。
 
 また、一定の基準のもとに、振り替えた資本性劣後ローンは、資産査定上資本とみなすことが出来るため、借入の債務者企業の自己資本が見かけ上増えます(このことの効果として、債務者区分の引上げの可能性、追加融資の可能性など)。
 
 なお、令和5年11月27日に、経済産業大臣、財務大臣兼金融担当大臣等から全国の官民金融機関等宛てに出された要請文書「『デフレ完全脱却のための総合経済対策』を踏まえた経営改善・事業再生支援の徹底等について」においても、過大な債務や物価高騰等に苦しむ事業者に対して、資本性劣後ローンを積極的に活用することを要請しています。
 
 また、本年3月8日に策定された「再生支援の総合対策」(関連記事「コロナ緊急措置終了へ(中小企業支援のスタンスを経営改善・再生支援を軸とする方向に回帰、民間ゼロゼロ融資返済、本年4月が山場)、そして、この先(その1))においても、本年6月までのコロナ資金繰り支援においても日本政策金融公庫等のコロナ資本性劣後ローンを本年6月末まで延長するなど、利用が促進されています。

 DESとは(「▼」をクリック(タップ)でコンテンツが開閉できます。)。

 DES(Debt Equity Swap)とは、債務(デット)の一部又は全部を株式(エクイティ)に転換(スワップ)する手法です。債務者企業にとっては、債務(借入金)が資本金に変わるため、早期の債務超過解消が実現し、財務の安定化が図られます。
 
 金融機関やスポンサーは、再生が順調に進めば、株式価値の上昇によるキャピタルゲインが期待出来ますが、債務者企業が非上場会社の場合は、換金(売却)が難しいため、種類株(取得請求権(会社法108条1項5号)付き)の利用などの検討が必要です。
 
 また、金融機関等が株主となるため、債務者企業から見れば、経営の自由度が低くなる一方、金融機関としても、債権放棄と同じ経済的デメリットがあるため、取組みとしては、ハードルが低く、中小企業では事例が少ないようです。

 再生計画期間の5年について(「▼」をクリック(タップ)でコンテンツが開閉できます。)。

 山形屋における再生計画期間が5年間とされていますが、これについては、中小企業活性化協議会支援によるスキームの再生計画要件(中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊2 再生支援実施要領 2022年4月1日作成)である、
 1 経常利益の黒字化が概ね3年以内
 2 実質債務超過解消が5年以内
 3 再生計画の終了年度(原則として実質的債務超過解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフ
  ロー比率が概ね10倍以下
 に沿ったものか、いわゆる「合実計画」の要件の一つである経営改善計画期間について「経営改善計画等の計画期間が原則として概ね5年以内とされている」ものに沿った再建計画期間設定であると思われます。

 再生計画期間の5年について(「▼」をクリック(タップ)でコンテンツが開閉できます。)。

 山形屋における再生計画期間が5年間とされていますが、これについては、中小企業活性化協議会支援によるスキームの再生計画要件(中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊2 再生支援実施要領 2022年4月1日作成)である、
1 経常利益の黒字化が概ね3年以内
2 実質債務超過解消が5年以内
3 
再生計画の終了年度(原則として実質的債
 務超過解消する年度)における有利子負債の
 対キャッシュフロー比率が概ね10倍
に沿ったものか、いわゆる「合実計画」の要件の一つである経営改善計画期間について「経営改善計画等の計画期間が原則として概ね5年以内とされている」ものに沿った再建計画期間設定であると思われます。

金融支援以外の事業再生支援

 一方、金融支援以外では、財務健全化として遊休資産の売却、組織再編として、6月中にもグループ現24社を束ねる純粋持ち株会社山形屋ホールディングス(HD)を設立、山形屋創業家の現会長と現社長が経営陣として残留するほか、鹿児島銀行、ルネッサンスキャピタルから役員が入る予定とされています。
 
 また、HD化後は、グループ会社及び別店舗9社・店を統合、店舗活性化として、テナント導入など店舗リモデル、業務改善として、顧客向けアプリの開発などを手掛ける予定とのことです。

再建の鍵

(photo by AC)

イグジットを見据えた関係者の調整が課題か

 山形屋が経営難に陥った経緯で、トリガーとなった要因としては、新型コロナウイルス禍による売上げ減少と耐震工事などの設備投資が重なったことによる資金繰りのようです。
 
 一方、遠因となったのは、山形屋に限らず全国の百貨店が置かれている厳しい状況です。郊外型大型商業施設の出店やインターネット通販に押されて、集客力が落ちていること。
 
 ただ、山形屋単体の23年度総額売上高は前期比3.2%増の379億円、営業利益1億1200万円(前期は2億800万円の赤字)で4期ぶりに黒字化しており、この辺りが再建可能と判断する一材料になったのではないでしょうか。 
 
 今後の再建の行方ですが、私は専門外なので、百貨店のマーケティングについて言えることはありません。
 
 私の視点では、今回、メディアでは、あまり、フォーカスされていないようですが、持株会社の役員に東京都に本社を置く事業再生ファンドから役員が入るという点です。
 
 この事業再生ファンドが金融支援後の残余の約250億円のうち、どのくらい関与(例えば、債権の買い取りなど)しているかは明らかになっていませんが、役員を送るということは、経営にも積極的に関与するハンズオン支援ということになるのでしょうか。
 
 いずれにしても、今回の再生は、金融支援等による自力再生と再生ファンド支援によるスポンサー支援のハイブリット型で、銀行団と再生ファンドの方々の再生に関する具体的手法、考え方の意志疎通などの調整、再生ファンド側の視点としては、イグジットを見据えた各種調整が予想され、このような利害関係者の調整がスムーズにいくかが、ひとつの焦点になるかと思います。

百貨店経営を取り巻く諸問題

(photo by AC)

 首都圏の百貨店やデパートでも、本当に賑わっているなと感じるのは、銀座や日本橋界隈といった高級志向のお客さん、外国人が集まるところか、それ以外の繁華街にある百貨店等の一部のみです。
 
 また、そのような所でさえ、フロアによっては閑古鳥のフロアもあるなぁと感じます。大げさに言うと、唯一、常に盛況なのは、デパ地下だけと言ってもいいぐらいでしょうか。
 
 池袋のそごう・西武の例もあり、百貨店の「商売の形」「高級品の販売」が従来どおりに行かなくなっているんだなと感じます。
 
 一方、地方の百貨店低迷の問題の根底には、人口の減少(購買層が薄くなってきている)が本質的な問題としてあるように思えます。人口の問題は、もちろん、百貨店単独で解決できる問題ではありません。
 
 ならば、今、地域にお住まいの方々の視点に立った、地域のお住まいの方々が行き易い、地域に根差した経営を基本とすべきではないでしょうか。
 
 例えば、ほとんど思い付きですが、フロアの一部を公立の図書館にしたり、地域住民の方々が集まる場所にまずは変えていく方法もあるのではないでしょうか。また、県内にある他店舗については、物流の問題もありますが、商品を自宅まで届ける業務を主力にするなど(地域版インターネット通販)の方策もあるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

勤務特定社労士。左記国家資格以外に、BSA(事業承継アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、TAA(事業再生アドバイザー、一般社団法人金融検定協会認定)、事業承継・M&Aエキスパート(一般財団法人金融財政事情研究会)の認定資格を取得。現在は、上記いずれの資格とは、直接には関係のない公的年金関係の団体に従事する勤め人です。保有資格に関連する実務経験はありませんが、折角、保有している資格を活かしたく、個別労働関係紛争に関する事項、労働法務デューデリジェンス、中小企業の事業再生や事業承継M&A、経営者保証問題について、中小企業庁が公表している各種ガイドライン、M&A関連書籍等及びセミナー等を通じて、自己研鑽・研究しています。現在(令和6年)、58歳。役職定年間近の初老の職業人です。

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